2012年6月23日土曜日

バッハ:ゴールドベルク変奏曲 by グールド(1981)

1981年のこの録音は、はじめて聞いたときは55年の録音に比べてつまんないと思った。ところが、それから15年たって聞いてみると、これがすごくいい。というか、これは奇跡的な名盤としかいいようがない。

まず驚くのが、音の軽さだ。手首にほとんど力が入っていないかのようなとても軽いタッチで弾いている。けれど、それは「軽い演奏」ということではまったくなく、早いところでは明るい気分を、ゆっくりしたところでは落ち着いた気分をそれぞれ感じさせる。

55年版では、どこか若き才気のほとばしり、といった感じの演奏だったが、81年版では曲自体への新たな解釈をもとに、じつに緻密な演奏をしている、という気がする。たとえば、ここのページを見てほしい。

ここでは、宮澤淳一の論文において、81年版でグールドが、「一定のパルス(拍子を刻む一定の時間間隔)を設定し、全ての変奏において、拍子(を決める音符の音価) がそのパルスと等価または整数比になるように拍子を刻む速さを設定している」 ことが指摘されていると言及している。

要するに、すべての変奏に共通の早さの基準を設けて、それを楽譜ときっちり対応させながら弾いている、ということだろう。一見すると、とても自由に弾いているようにも見えるが、しかし実はものすごく自分を律しながら弾いているわけだ。こうしたアプローチ方法は55年とは明らかに違う。

タッチの強弱も81年版の方が明らかに均衡がとれていて、右と左、一音一音の強弱がとても均整がとれている。違うのは、早さだけではないのだ。

グールドがどうやって81年のこの版を作ったのかがよくわかるインタビューがあった。




55年の演奏もすごいが、81年の演奏は、彼がただの若き天才にとどまらず、進化し続けていたことがわかる。天才がエゴを超えて見事に成熟し、彼の孤高の表現となる作品を最後に生み出した。驚きなのは、彼のその才能に見合うだけの作品をバッハというこれまた天才作曲家が残していた、ということだ。


バッハ : カンタータ第56番&第82番 by フランス・ブリュッヘン

フランス・ブリュッヘン指揮でエグモントがバスの『カンタータ』第56番と第82番。1977年の録音。


BWV56「我、喜びて十字架を背負わん」は三位一体節後第19日曜日用に作られた曲。解説はこちら

BWV. 82の「我、満ち足れり」は聖母マリアの潔めの祝日のために作られた曲。ルカ伝2.29にあるシメオンの「満ち足りて死を思う」という言葉がテーマとなっており、半ばの変ホ長調のアリアでは、「まどろめよ。疲れし眼(まなこ)/穏やかな幸いをもて目ぶたを閉じよ」と歌われる、「まどろみのアリア」と呼ばれる名曲。解説はこちら。

エグモントは語りかけるような歌い方で、上手に感情を込めて歌っており、説得力がある。たとえばこの曲の感情の動きを聞いてほしい。


これはバッハのカンタータの名演、名盤だ。

Pergolesi, La Serva Padrona by Collegium Aureum

コレギウム・アウレウム合奏団によるペルゴレージの『奥様女中』の録音。あらすじはこちら

ソプラノはマッダレーナ・ボニファッチョ、バスがジークムント・ニムスゲルン、そしてコレギウム・アウレウム合奏団の演奏。フッガー城糸杉の間で1968年に録音された。

録音年代は古いが、音質はとてもよい。それどころか、録音場所の音響効果でバスが甘く響き、それに絡むボニファッチョのソプラノもかわいいくてすてきだ。ときにコミカル、ときに可憐なその歌声には魅了されてしまう。二人のレチタティーボのやり取りも楽しい。

ハイドン チェロ協奏曲 by Academy of Ancient Music

Academy of Ancient Musicによるハイドンのチェロ協奏曲、第一番と第二番の録音。チェロはChristophe Coin、チェンバロはクリストファー・ホグウッド(Christopher Hogwood)。

ソロも録音もすばらしく、ピリオド楽器ファンに自信をもっておすすめできる。とくにチェロ好きにはたまらないだろう。メロディーも有名で、一度聞いたら忘れられない。どこをとっても、これぞバロック音楽という作品だ。



ヴィヴァルディ ヴァイオリン協奏曲 ホ長調 『恋人』 by English Concert

ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲『恋人』をはじめ、さまざまな協奏曲が納められた録音。演奏はピノック&イングリッシュ・コンサート。

彼らの録音は『四季』以外ほとんど知られていなかった大作曲家、ヴィヴァルディの真価を世に知らしめたものとして名高い。

RV271の『恋人』は夏の恋の喜びと平和を歌った曲で、『四季』と同じ頃に書かれた。ヴァイオリンのSimon Standageの演奏もすばらししく。録音もオーケストラとソロの音をくっきりと分けて聞かせる。

バソンやフルート協奏曲など、ほかにもさまざまな協奏曲がその後に続き、ヴィヴァルディという作曲家の才能を味わわせてくれる。特有の哀愁を持つ『ヴィオラ・ダモーレとリュートのための協奏曲ニ短調』RV540も聞き所。

いまでは、このアルバムを含めた全七枚の『Stravaganza-55 Concertos』が安く手に入るので、そちらを買うといいだろう。

マーラー:交響曲第10番 by サイモン・ラトル/Bournemouth SO

この演奏は、サイモン・ラトルが1980年にバーミンガム市交響楽団の音楽監督になる前に録音された。彼の最初の主要な録音であり、同時に彼の最高の演奏の一つ。クックの最後のバージョンに変更が加えられている。たとえば、第2楽章の終わりのシンバルクラッシュは成功しているが、フィナーレのクライマックスにおける余分なパーカッションなどは成功していない。

ボーンマスの弦楽奏者たちは、マーラーとクックの無慈悲な要求に対処するため、とんでもない時間を費やしたことだろう。全体を貫く緊張感がこの音楽のメッセージであることは間違いない。

2012年6月22日金曜日

平均律クラヴィーア曲集 by レオンハルト

バッハの平均律クラヴィーア曲集のチェンバロによる録音として代表的なもの。曲自体についてはこちら

リヒター版が天上からのものであるとすれば、レオンハルト版は地上から、という意見があったけれど、当を得ていると思う。がっつりと骨太な演奏で、チェンバロの魅力を存分に味わえる。

バッハ:ブランデンブルク協奏曲全集 by ラ・プティット・バンド

クイケン兄弟による『ブランデンブルク協奏曲全集』。曲自体の詳しい解説はこちら。この録音は、「肩のチェロ」といわれるヴィオロンチェロ・ダ・スパラを用い、管楽器はバルブなしのナチュラル楽器、オーケストラはバロック時代の形態通り1パート1人という編成で録音された。二番はトランペットに代わり、ホルンが用いられている。そのへんの事情はこちらを参照。93年と94年に録音。

すばらしい録音だと思う。この作品の録音はバランスが悪いのもあるが、これは完璧。演奏のバランスも完璧。5番のチェンバロの独奏もすばらしい。これは90年代の録音のベストだろう。

モーツァルト:交響曲全集 by ヤープ・テル・リンデン

ヤープ・テル・リンデン指揮、アムステルダム・モーツァルト・アカデミー演奏のモーツァルト交響曲全集。 2001と2002年デジタル録音され、前期がロッテルダム、後期がユトレヒトで収録された。とくに ユトレヒトの「マリア・ミノール」という古い教会の残響が美しく、ハイレベルな音質が楽しめる。

モーツァルトという作曲家を演奏するさいには、どうしても「モーツァルト」らしいか否か、というのが最大のポイントになると思う。

大学生の頃、大学の先生のモーツァルト演奏(ピアノ)を聞いて、まったくモーツァルトらしくないまじめな演奏でびっくりしたことがあった。曲のせいかと思ったが、適当にCDを聞いてみると、そうではない。

楽しくないモーツァルトと楽しいモーツァルト。どちらが好きか。たとえばベームの演奏は前者の代表としてよく挙げられる。


あら、こうして聞いてみるといかにも現代的な忠実な感じの演奏で悪くない。でも、2ちゃんねるなどでは意見は真っ二つに分かれていて、反ベームか親ベームかという論争が延々と繰り広げられている(と思う)

さて、本題のこのリンデンの録音だが、これは意外なことに、反ベーム派、親ベーム派どちらにも受け入れらるという快挙をなしとげている。古楽器による忠実な演奏で、派手さも際だったウリもないが、決して外れではない。・・・と書くとかんだかつまんない演奏のように聞こえるが、決してそうではない。たとえば次の録音を聞いてみてほしい。


かなりレベルが高いと思う。ピノックによる演奏の方が楽しい、という意見もあるが、これはこれでベーシックなモーツァルト演奏の代表格だと思う。

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 by Anne-Sophie Mutter

とあるコンサートでこの曲を生で聴いてとても感激したのでこの録音を聞いてみた。クルト・マズア指揮、ニューヨーク・フィルとムターの演奏。

ところが、これはぼくが生で聞いたのとは全く違う演奏。なんというか、あまりに情熱的で、ブラームスというよりムターの曲になっている。ぼくには、この曲の持つ繊細さが台無しになっていると思われたが、好きな人もいるだろう。

ただ、今では、こういう、演奏家の個性を全面に出した演奏はやらないと思う。ここ10年ほどのあいだにクラシック界が変化したということだ。

しかし、この演奏は参照されることが多く、次のページではこの演奏をもとにこの曲が解説されていて、一読の価値がある。

http://www.kellydeanhansen.com/opus77.html

バッハ:独奏と2つのヴァイオリンのための協奏曲集 by Academy of Ancient Music

ハルモニア・ムンディ・フランスによる『独奏と2つのヴァイオリンのための協奏曲集』>マンゼ(Andrew Manze)のソロと指揮、アカデミー・オヴ・エンシェント・ミュージックによる演奏。「二つのヴァイオリンのための協奏曲」ではポッジャー(Rachael Podger)が第2ヴァイオリンを担当している。